自転車乗りの餞別

友人Sの米国留学が決まった。普段はあまり会わないくせに、海外と聞いた途端、ちょっと酒でも飲もうかという流れになるのだから、くされ縁とは不思議なものだ。

Sは高校に入ってはじめての友人で、誕生日が同じという偶然もあり、よく話した。旅行もした。旅行をしたとき、Sに宿の手配を頼んだら、勝手に高い部屋を予約しやがった。その言い草が「一番安い部屋は予約しづらかった」というのだから、金持ちの感覚は分からない。私立高校だったから、周りは金持ちが多かったのだ。

価値観の違いでイライラすることもさせることもあった。私がそんな感情を表に出しながら、なおかつ交歓が継続するのも珍しく、そうするとやはり大事な友ということになろう。それで、餞別を考えた。

Sとは自転車仲間でもあったので、私の専門分野で探すことにした。その結果が『ヒラメ・ポンプヘッド(横カム)』だ。何のパーツかというと、空気入れの先端部分。マニアックなパーツだが、ユーザーの誰もが頷く名品中の名品である。

ポンプヘッドに添えたのは、ゴムホースをとめる金属バンド。ショップに純製品がなかったのでホームセンターの水道管売り場で購入した。ゴムホースを通し、マイナスドライバーで締め込む。高圧を入れるロードバイクゆえ、バンドにもそれなりの固定力が必要なのだ。

空気入れの先端部分だけを交換するなんて、と思うかもしれない。既存の製品でも、不満なく空気が入るのだ。
しかし、これ(通称ヒラメ)を知れば使うたびに感嘆する。ユーザーだけが分かる贅沢品。嗜好品。祝いの品に、我ながら良いチョイスだったと自賛している。

元気でな、S。